被災証言を聞いて考えたこと

「Forever〜決して忘れてはいけないあの時〜2023刻(キザム) 」を観劇して

2023年8月31日に文京シビックホールで上演された「Forever〜決して忘れてはいけないあの時〜2023刻(キザム) 」。NPO法人「StarsArts」によってプロデュースされた本公演は、東日本大震災で被災した人々の証言を語り継ぐことによって、あの震災の記憶を、そこから得られた知見を、新しい世代に引き継いていくことを目的としています。公演を見学したゼミメンバーはまさにその「新しい世代」。彼ら彼女らが観劇を通じて考えたこと、大切だと思ったことを記録します。

  

植田 華穂(文芸学科2年)

生き残ったことに何かの意味がある

今回の講演を聴き「東日本大地震」は人々から大切なものを奪ったが、それと同時に大切なものを教えてくれたのだと感じた。 おばあちゃんと避難していておばあちゃんだけが津波に飲み込まれてしまった方、娘が亡くなり母親が助かった方、ありがとうの言葉を伝えられずに亡くなった叔母。 震災は大切な人、大切な日常を一瞬にして奪っていった。 講演会で話してくれた方々はこの辛い経験を得てこのようなことを話してくれた。

「生き残ったことに何かの意味がある」、「より良い生き方とは何かあの津波が教えてくれた」。

今ある日常の全てが当たり前ではないことを東日本大地震が教えてくれたのだと。 津波により叔母を亡くした方は、「ありがとう」を伝えることが出来ずに後悔しているとお話ししてくれた。 自分にとって身近な人ほど感謝の言葉を伝えることは照れ臭いことかもしれないが、この方は感謝の気持ちを日常で伝えることの大切さ知ることが出来たのだと話していた。 東京に住んでいる私は東日本大地震が多くの大切なものを人から奪っていったことしか知らなかったが、被災者は震災から大切なことを学んでいたのだと感じた。

また、「東日本大地震」のことについて、自分が何も知らないのだと気づくことができた。

3 月 11 日 14 時 46 分東北に大地震が発生した。 東京に住んでいる私は地震後にテレビを見ることが出来たが、東北ではテレビが付かなくなってしまった。 東北の方達はテレビを見ることが出来なかったので、津波が来ることを知らなかったのだ。 地震発生後に海の様子を見に行った方もいた。 車の中のラジオを聴くことが出来たと言っていて、そこで初めて津波が来ることを知ったのだと。 私はなぜ地震発生後すぐに避難を開始しなかったのだろうと思っていたが、避難しなかったのではなく知らなかったから避難できなかったのだと被災証言を聴き知ることができた。 そして津波が押し寄せて来ることを知った頃には、自分の住んでいる街がどんどん海になっていった。

目の前に現れた東北の綺麗な海ではなく海は真っ黑だった。 被災証言をお話ししてくれた方たちはその中でも助かった命である。 きっと大勢の人が同じ状況下に直面し、津波に巻き込まれたのだろう。 私は今まで地震発生後に東北のテレビが付かなかったことを知らなかった。 また「津波」も東日本大地震が起こるまで知らなかった。 東京に住んでいる私は、東北の方の恐怖心や体験を知らずにいたが今回の被災証言を聴き 無知な自分からほんの少し抜け出すことが出来たと思う。

 

梶田 芽衣(文芸学科2年)

この震災は、私たちに大きな教訓も残した

8月31日、文京シビックホールにて開催された、特定非営利活動法人スターズアーツさん主催の朗読劇「Forever~決して忘れてはいけない あの時~2023 刻 キザム」を観劇し、テレビ番組やネット記事だけでは得られなかった震災当時の壮絶な惨状に圧倒された。

9つの被災証言を朗読劇形式で傾聴し、複数の証言で共通して得た感想は大きく二つ。一つは、皆「海を見てくる」と実際に行ってしまうのだ、ということだった。津波警報は発令されていても、津波が来る気がしない。とりあえず、現在の波の様子を見てくる。そんなちょっとした行動で逃げ遅れ、命を落とした人が、数えきれないほどいるという。波の動きは、人には全く予想がつかない。そして当時は、まだ津波というものに対しての知識や恐怖心も少なかった。「避難しろ」と言われても、逃げなければいけない障害の状態が把握できなければ、油断してしまう。この震災は、私たちに大きな教訓も残した。

二つ目は、災害発生時、「他人と一緒に助かる」ということは、現実では不可能に近いということだ。自分の命が脅かされた時、人は他人を一番に捨てる。これが人間の本質だ。自分の命を守れるのは自分以外の誰でもない。まず自分が助からなければ、助けたかった誰かも助けることができない。苦肉ではあるが、差し出した手を自ら引くという選択が、最良といえる時もあるのだと、今回の被災証言を通して強く感じた。

 

佐藤 微笑(文芸学科2年)

大切なのは命。自分の命は自分で守る

私は、東日本大震災に対して、大きい地震が起きた、津波がきた、多くの人が亡くなった、そういった表面的なことしか知りませんでした。

しかし、今回の公演によって、今まで私が生きてきた中で、知ることも、想像することもなかった、東日本大地震は私たちが思っているよりもそれだけ恐ろしい存在であったのか、地震だけでなく、その後に起こった津波や火災、避難所生活や精神病など が東北の人々から当たり前を瞬く間に奪ったこと。さらに、大切な人をいきなり失ってしまうことの怖さなどを知りました。また、それらにより私の東日本大震災、地震、津波に対する、考え、感じ方が覆られました。

地震や津波といった自然災害は私たちが立ち向かうことのできない恐ろしい存在です。そんな得体の知れない恐ろしい存在に負けないためには、これらに対して事前に 十二分な知識を持つことだと再確認しました。

 「大切なのは命。自分の命は自分で守る」

これは私が一番印象に残っている言葉です。

私たちは、地震に慣れすぎてしまっていて、津波の知識がなさすぎると思います。 自然災害を侮ってはいけない、と東北の方々はこの公演を通して、私たちに訴えてくれました。このことは、周りの人だけでなく、あとの時代にも伝えていかなければなりません。自分の命を守るためにも、大切な人を失わないためにも、私はその使命感に駆られました。

  

田口 愛弓(文芸学科2年)

「あの当時のことは覚えていない」

私が東日本大震災を経験したのが小学一年生。寒空の下、校庭で引渡しされる番を待っていた。しかし、NTT東日本の通信障害で母に緊急連絡は届かず、私は幼なじみのお母さんによって引き渡しされた。家に着くと、地震が本やフィギュアを床に散乱させ、ガスは止まっていた。電気は付いていて、テレビからは汚い海が家を飲み込み、屋根の上で必死に救助を求める人と犬の映像が流れていたのをよく覚えている。

一方、今回の朗読で印象深かったのは「あの当時のことは覚えていないのです」と語る被災者の声だ。

私は不安感も景色も音もパニックの風景もある程度覚えているけれど、実際に被災をした方々は記憶が無くなるほどの衝撃をあの日経験したのだろう。記憶に残したくないという潜在意識がそうさせるのか、時の流れがそうさせるのかととても考えさせられた。

そしてもう一つグサッと刺さったのは老夫婦のお話だった。予期せぬ災害でも大切な人に見捨てられたことを許せないと語る奥さんの言葉が脳裏から離れない。

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